現在、二か所で見ているトウダイグサ科トウダイグサ属の株の種子が熟すのを待っています。
一種類はおよそこれかなと感じて「コバノショウジョウソウ」と断言的に書いてしまったのですが、未確定としなければ不誠実でした。
もう一か所のほうが、佇まいが少し違う感じがして、見守ってきましたので、ここでようやく科学的な識別/同定と接続しようと思います。
あたりをつけているのは二種類。
1. 全体像とまず押さえる位置づけ 記載 :1984年、R. Subils により E. dentata から分割された既知種。新種ではなく分割種。
原産 :北米南部〜メキシコ北部、および南米(アルゼンチン等)。
世界的拡散 :北米・南米・オーストラリア(NSW, Qld)・欧州で帰化。EPPOも監視対象。
日本 :定着した和名なし。国内帰化リストへの正式採録もほぼなし。
紛らわしい種 :同節の E. dentata (コバノショウジョウソウ)、E. cyathophora (ショウジョウソウ)、E. heterophylla (ショウジョウソウモドキ)。特に E. dentata とは長年混同され、EPPO・APNI(オーストラリア植物名索引)が「同種として扱われていた履歴」を明記。
出典:Flora of North America、NSW Flora Online、Minnesota
2. 診断形質(決め手になる順に) A. 種子 ― 最上位の決め手
項目
E. davidii
E. dentata (対比)
大きさ
2.4–2.9 × 2.2–2.9 mm
2.1–2.7 × 1.7–2.1 mm
断面
角ばる(angular)
丸い(rounded)
表面
低い突起、不均一 に配置、しばしば不明瞭な横列
均一な微小突起
色
黒〜褐色〜淡灰色
灰褐色
カルンクル
0.9–1.1 mm
0.4–0.6 mm
種子は Poinsettia節では識別に必須級 と位置づけられ、Minnesota Wildflowers も「Seeds are essential for identification」と明記。カルンクル(種阜)が明らかに大きいのも davidii 側の指標。
B. 蒴果 ― 第二の決め手
項目
E. davidii
E. dentata
形
広卵形、3稜
扁球形、3稜
サイズ
2.9–3.3 × 4–4.8 mm
2.5–2.8 × 3.5–4 mm
表面
無毛
無毛
蒴果は幅 で見る。4 mmを明らかに超えて4.5〜5 mm近くまでいく なら davidii 側の重み。3.5〜4 mm前後だと重なるので単独では決められない。
C. 葉裏の毛 ― 節内で決定的な差
項目
E. davidii
E. dentata
毛質
strigose、硬く、明瞭に基部が広く先が細くなる(strongly tapered)
長い軟毛(pilose)、細く弱い糸状(filiform)
密度
疎らだが強い
長毛が疎生〜密生
Flora of North America の検索表は、この毛質の差を第一の分岐点にしている。NSW Flora Online では「bristly septate hairs(節のある剛毛)」と表現。斜光でルーペ〜マクロ撮影 すると差が読める。
D. 茎の毛
E. 総苞腺体(involucral glands)
項目
E. davidii
E. dentata
E. cyathophora
E. heterophylla
数
1個(まれに2)
(1〜)2個
1〜2個
1個
形
楕円〜長楕円
卵形〜楕円
横長楕円
杯状
付属体(appendages)
なし
なし
なし
なし
davidii は「1腺体、無付属」が典型。マクロ写真で杯状花序を真横〜斜め上から撮ると読める。
3. 補助形質(単独では決められないが確度を上げる) F. 葉
項目
E. davidii
形
狭〜広楕円形 、ときに披針状楕円。長さ 10–100 × 幅 5–35 mm
基部
楔形〜漸尖(cuneate to attenuate)
縁
粗い鈍鋸歯〜鋸歯、縁は反り気味〜ほぼ平ら
上面
疎らな strigose-hirsute、しばしば紫褐色の斑点
葉柄
7–25 mm、strigose
頂部苞葉
赤変せず
対する dentata は「狭披針形〜亜円形、中央より下で最広」で、葉のシルエットがやや台形寄り。davidii はより整った楕円形 。
G. 頂部の赤色
davidii :基部が赤変しない 個体が多い(写真で色付きが目立たなければこちら)。
cyathophora :頂部苞葉の基部が明瞭に赤変。
heterophylla :白斑が入る個体が多いが、変異大。
H. 上部苞葉と通常葉の異葉性
davidii / dentata :同型 で、上下ともに鋸歯縁の卵形〜楕円形。
heterophylla :明瞭な異葉性 。上部は針状〜線状披針形、下部は卵形〜楕円形。
ここは前回の「今回の個体は heterophylla 寄り」判定にも直結。
4. 生態・分布・フェノロジー 項目
内容
生活型
一年草 、直根性、地下茎なし
草丈
20–70 cm(北米)/〜50 cm(豪州)
生育地
撹乱地、道路脇、線路敷、耕作地縁、河川敷、プレーリー、砂質・礫質土壌
開花・結実期
春〜秋(北米では7〜9月がピーク)
侵入性
北米・南米・豪州で耕作雑草として問題。欧州でも警戒対象
5. フィールドでの識別プロトコル(今回の記録目的向け) 必ず撮る/持ち帰る4点セット
成熟して自然に落ちた種子 を白紙上でマクロ撮影 → サイズ(2 mm前半か2.5 mm超か)/断面(角か丸か)/突起の均一性/カルンクルの大きさ
完全に熟した褐色の蒴果 を横から接写、ものさし添え → 幅(4 mm前後か4.5〜5 mmか)
葉裏を斜光でクローズアップ → 毛が糸状で柔らかいか、硬く基部広く先細か
杯状花序を真横から接写 → 腺体の数(1か2か)、形(楕円か横長か)、付属体の有無
補助で撮る
6. Poinsettia節4種の即席比較表
形質
E. davidii
E. dentata (コバノショウジョウソウ)
E. cyathophora (ショウジョウソウ)
E. heterophylla (ショウジョウソウモドキ)
葉配列
対生、上部で互生も
対生、上部で互生も
互生 、下部で対生も
互生 、下部で対生も
上下葉の異葉性
弱い
弱い
中〜強、下部葉が pandurate
強、上部は線状披針形
葉縁
粗い鈍鋸歯
粗い鈍鋸歯〜重鋸歯、変異大
全縁〜浅裂〜波状
全縁が基本、鋸歯や切れ込みも
頂部苞葉の赤変
通常なし
通常なし
あり(典型)
あり/なし
葉裏の毛
硬い先細毛
柔らかい糸状毛
ほぼ無毛〜疎
ほぼ無毛〜短毛
腺体数
1(まれに2)
(1–)2
1–2、横長
1、杯状
蒴果幅
4–4.8 mm
3.5–4 mm
3.5–4 mm
3.5–5 mm
種子サイズ
2.4–2.9 mm、断面角ばる
2.1–2.7 mm、断面丸い
2–2.6 mm
2.5–3 mm
種子表面
不均一な低突起
均一な微突起
不明瞭〜有溝
明瞭な突起
カルンクル
0.9–1.1 mm(大)
0.4–0.6 mm(小)
有
有
出典:FNA E. davidii 、FNA E. dentata 、FNA sect. Poinsettia、Jepson Key to Euphorbia、Minnesota Wildflowers、NSW Flora Online、Wikipedia ショウジョウソウ、Wikipedia ショウジョウソウモドキ
7. 実務上の注意 葉の鋸歯だけで dentata とも davidii とも断言できない 。鋸歯の強弱は両種で変異が大きい。
葉が細長め・楕円形寄り・毛が硬い → davidii 疑い 、葉が幅広・毛が柔らかい → dentata 疑い 、というのはあくまで方向づけ。
確定は「種子+葉裏毛+蒴果幅」の三点セット 。一つでも欠けると、標本や記録として弱くなる。
日本での E. davidii の帰化記録はまだ限定的 。もし確定できれば地域スケールの帰化新記録寄りの価値が出るので、採集した種子と葉裏毛のクローズアップは博物館・研究者への照会にも耐える形で残す のが理想。標本ラベルには、群落の位置・環境・観察日・撮影者と、可能なら同群落での dentata 除外の根拠を並記。
観察倫理(今後も更新、微調整しつつ)に基づき、
種子が熟したら持ち帰らず、その場で確認してこようと思うのですが、ひとつ気になることが。
外来種の植物の種子はいじってよいのだろうか……。
いじらずに撮影する場合にはどの角度を探そうか。
調べてのちほど追記します。
続報🌿観察方法について
外来種と特定外来種を別として、
今回のトウダイグサ属の植物は「外来種」と調べたので、
その場でいじらずに、這いつくばって観察してくることに決めたよ。